Vol.3「違う業界だから、できた話~雑談の中にあった未来のヒント~」
インタビュー:トーア木材株式会社代表取締役
北畑一さん
聞き手:浅沼宏一
岩手で木材加工業を営むトーア木材株式会社の代表取締役・北畑さんは、長年「木とともに生きてきた」木材産業の担い手です。12月の山の神のお祭りで、浅沼醤油店の「アカマツのジンジャーエール」を振る舞ったところ、参加者から「どこで買えるの?」と驚きと喜びの声が上がりました。木といえば家の柱や材木というのが常識だったなか、「木が飲み物になる」という発想は地域の人々に新鮮な驚きをもたらしました。北畑さんは「自分たちに身近なアカマツが、こうした形で人に喜ばれるのは嬉しい」と語ります。その土地で育った木が、地域の新しい味として息づく──その出会いが、森林に新たな可能性を灯しています。
気がついたら、ずっと木のそばにいた。
浅沼:社長は、小さい頃から木に触れてこられたんですよね。
北畑:俺が木の仕事に就いたのは、もう「必然」みたいなもんだと思ってる。木の仕事しか知らないし、気がついたら、ずっとその中にいた。
浅沼:選んだというより、そこにあった感覚に近いですかね。
北畑:うーん。学校が終わると、みんなは川に泳ぎに行くわけさ。でも俺だけ、家から呼ばれて「手伝え」って。
浅沼:遊びたい盛りですよね。
北畑:そう。小学生の頃からパレットの釘打ちを手伝っていた。大人でも手を持ってかれるような仕事を、当たり前みたいにやっていた。当時はそれが家業だったから。
浅沼:僕は醤油臭いなんて家業をからかわれると嫌でしたね(苦笑)。でも、北畑さんはそのころから、将来も木の仕事をするつもりだったんですか。
北畑:若い頃は板前になりたいと思っていたこともあった。20歳くらいの頃は長野に行って、スーパーの精肉コーナーで働いたりしていた。
浅沼:そこから、また戻ってきた。
北畑:戻ってきたというより……。「食べていける仕事」を考えたときに、木材の仕事しか、頭に浮かばなかったんだよね。それしか知らなかったから。
浅沼:身体が覚えていた。
北畑:選んだというより、「引き受けた」って感覚に近い。気がついたら、木の仕事を続けてきた時間の方が、人生の大半になっていた。
浅沼:地元産業の担い手といえば、今月NHKでこの地域に移住してきて炭焼職人を継ごうと奮闘されている方の特集を見ました。
北畑:ああ、地域おこし協力隊で炭焼きを始めた子がいるよ。とてもまじめで肉も食べないし、酒も飲まない。でもね、自分で借金して窯まで作ったんだよ。
浅沼:本気ですね。
北畑:本気だよ。協力隊の任期が終わってからが、本当の勝負だからね。それで食べていけるかどうかは、全然別の話だ。
浅沼:だからこそ、心配にもなる。
北畑:嬉しい反面、続けられるかどうかが心配になる。愛情があるから、単純に「頑張れ」って言えないんだよ。
浅沼:社長ご自身が、引き受けてきた側だからこそですね。
北畑:そうかもしれないな。俺は引き受けてきた側だけど、これからは、どうやって次の人が引き受けられる形にするか。そこまで考えないと、この地域の木の仕事は続かない気がしてる。

匂いが、仕事を肯定してくれた。
浅沼:社長は、木の香りを意識されたのは、いつ頃なんですか。
北畑:本当に小さいころだね。自分では全然わからなかったんだけど、お店屋さんに行くと「いい匂いがするね」って言われた。
浅沼:それは、ちょっと嬉しいですね。
北畑:嬉しかったよ。最初はね、チェーンソーオイルの匂いかなって思ったんだ(笑)。
浅沼:確かに、現場にいるとそう思いますよね。
北畑:でも違うって言われてさ。「木のいい香りだよ」って。
浅沼:自分では気づかないものですよね。
北畑:家ではいつも木の匂いがしてたから、特別だなんて思ったこともなかった。でも、外の人にそう言われると、「あ、そういうもんなのか」って思えてね。
浅沼:嬉しいですよね。匂いがそのまま仕事の個性だったりします。
北畑:そうなんだよ。あのとき「いい匂い」って言われたのが、今思えば、最初に仕事を肯定してもらった瞬間だったのかもしれない。
浅沼:香りって、確実に人の記憶に残りますよね。
北畑:うん。今でもね、イラっとしたときに木の香りを嗅ぐと落ち着くというのはあるように思う。自分では意識してないけど、たぶんずっと助けられてきたんだと思う。
浅沼:暮らしの中に溶け込んでいる価値ですね。
北畑:派手じゃなくていいから、「ああ、なんか落ち着くな」って思える感覚を、次の人たちにも残せたらいいと思ってる。

中にいると見えない。でも、外の人はちゃんと面白がっている。
浅沼:この前、上海に行ったときに、ちょっと面白い体験があって。
北畑:へえ、上海で?
浅沼:夜にバーへ商品を紹介する営業に行ったんですけど、そこの経営者が30歳前後の女性で、日本にも何度か来たことがある方だったんです。
北畑:若い人だね。
浅沼:そうなんです。で、「日本の木、好きなんですよ」って言われて、突然、アカマツの木片コースターを箱から出してきたんです。
北畑:え、アカマツ?まだ香りしてた?
浅沼:してました。水を一滴たらして、指でこすって、香りを立たせながら楽しんでいて。
北畑:……それ、いいな。俺たちからすると、木片なんてそこらにあるものだけど。
浅沼:ですよね。でも彼女は、「この香りが落ち着く」って言って、すごく大事そうに扱っていました。
北畑:そうか……。中にいると、どうしても「こんなの誰が欲しがるんだ」って思っちゃうんだよな。
浅沼:私も、最初は驚きました。でもその人、ウイスキーを飲みながらだったんです。
北畑:ああ、なるほど。
浅沼:グラスを口に運ぶ前に、木片の香りを一度くんと嗅いで、それからウイスキーを飲む。「香りが重なるのが好きなんです」って。でも、考えてみると、都会にいる人ほど、森とか香りとか、自然に触れる体験を求めているんだなって。
北畑:逆に俺たちは、常に山に囲まれてるからさ。ありがたみを感じにくいんだよね。
浅沼:足元にあるものほど、価値に気づきにくい。
北畑:でも、外の人が面白がってくれると、「あ、これって宝物なのかもな」って思える。
浅沼:そういう視点が入ると、地域の素材の見え方も変わってきますよね。
北畑:水を垂らして香りを楽しむなんて、俺は考えたこともなかった。居酒屋でやってみたら、ちょっとした話のタネになるかもしれないな(笑)。
浅沼:確かに(笑)。香りを感じながら飲むと、お酒の味も変わって感じられますし。
北畑:ちょっとした工夫だけどさ、そういうところに、次の使い道のヒントが転がってるのかもしれないな。

違う業界だから、未来の話を途中で止めずにいられる。
浅沼:社長と話していて感じるのは、同じ業界の人同士で話すときとは、少し空気が違うな、ということなんです。
北畑:ああ、それはあるな。木材の人間同士だと、俺もだいたい途中で止めちゃうから…。「それ、無理だ」とか。値段が合わないとか、量が出ないとか、先に理由が出てきちゃう。
浅沼:私も醤油の世界で、同じことを感じます。
北畑:でも浅沼さんと話してると、そうならないんだよな。「それってどうなんだろう」って、最後まで話してしまう。
浅沼:私自身が、木の現場の話を聞くのが単純に面白いんです。
北畑:そう言ってもらえると…正直、嬉しいよ。「勉強になるな」って思うことも多いし。
浅沼:こちらこそです。社長が当たり前に話すことが、私には新鮮で。同じアカマツでも枝と幹など太さによって香りが違うんだよというお話なんかはとても興味深い発見でした。
北畑:同じ業界じゃないから、「そんなの無駄だろ」って言われないのがいいんだと思う。
浅沼:若い人が聞いていても、『あ、ここなら入っていけそうだな』って思える空気だと思います。
北畑:そうなったら、嬉しいな。

商品は、まだ途中にある。
浅沼:アカマツの太さと香りの違いって、単なる特徴の話じゃないな、という気がします。「アカマツ=原料」としか見えていなかったところから、「どの部位を?」「じゃあ、どう扱うか」「どこまで手をかけるか」って、その前後の仕事が全部つながって見えてきます。
北畑:俺たちは普段、「この木は何に使うか」「どこに出すか」っていう見方をしてる。提供するお客さんの求めるロットや品質に合わせて、使う機械も自然と変わってくるんだ。香りが価値になるということを基準に考え始めると、砕き方も、乾かし方も、その後の扱いも変わってくるかもしれないね。今日は、普段は雑木として他のチップと混ぜてしまう白樺を、あえて単体でチップにしてみたんだけど、改めて『白いなぁ』って思ったよ。
浅沼:私たちが使用させていただく量はまだとても少なくて、必ずしも設備との相性が適合するとは限らないですが、そういう設備の特徴や制約に合わせて、どのような工程で作っていったらよりおいしいものができるかを考えるのがたまらなく楽しい。
北畑:正直さ…初めにこの仕事を紹介されたときに、浅沼さんの作った商品が美味しくなかったら断ろうと思っていたんだ。でも、うちの事務員もお客さんも「おいしい」ってさ。使う人の顔が浮かぶと、「じゃあ、ここはこうした方がいいな」って自分も少し乗せられたって感じかな。
浅沼:ありがとうございます。危なかった・・・。サプライチェーンがつながった瞬間だと思います。
北畑:木を使ってもらえるっていうのは、やっぱり嬉しいんだよ。それだけで、次もちゃんと出そうって思えるし。面白がってくれるのも嬉しい。俺は…それを未来への投資だと思ってる。まぁ趣味が増えたようなものだな。
浅沼:商品は完成した瞬間がゴールじゃなくて、そこから先もずっと途中経過ですよね。「この先どうなっていくんだろう」っていう期待に答えていきたいですね。
北畑:派手なことはできないけど、ちゃんと話して、少しずつ直していく。
浅沼:これからも、一緒に考えていけたら嬉しいです。

北畑一さん
トーア木材株式会社 代表取締役